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イリス(アイリス)

2018.06.19 TEXT by Keiichiro Tsuda (Perfumer)
アイリス

雨と曇りが交互に続くこの季節。
雨が降って止んだと思ったら、また降ってきたりして。
洗濯ものも完全乾いているのか分からない感触のまま、取り込むこともしばしばあります。
私たち日本人には当たり前に慣れた季節も、日本にいる外国人滞在者にはかなりネックなようで、
乾燥地帯の国から来た人にはちょっと気が変になりそうなくらいストレスを感じる。
なんてことも聞いたことがあります。

そんな体感とは別に、梅雨の時期と匂いが個人的には大好きです。
植物がたくさん水分を吸収し、土や緑の香りがより濃く感じたり、
雨の景色から夏が扉を開ける寸前を、そのまま色にしたような花が麗しかったりします。
アジサイ、アガパンサス、クレマチスなど...
中でも一際そのアクアカラーを発揮しているのが、アイリス。
日本でよく見るのはアヤメ(菖蒲)と呼ばれたり、見分け方も少し難しかったりしますが、
根っこから香りが採られる物は、地中海沿岸が原産となるアイリス(イリス)を指します。

イリス(Iris pallida/germanica/florentina etc)の香りはとてもシャボン様。水と洗剤の中間のような香りが特徴です。
最初に嗅いだ時、私は幼い時よく遊んでした蛍光色のプラスチック容器に入っていた、あのシャボン液を思い出しました。
または「雨雨ふれふれ母さんが~、ジャノメでお迎えうれしいな、ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、らんらんらん♪」
この擬音語たっぷりな童謡の歌詞を、香りにしたようなイメージ。
窓から見る水浸しな世界に少しテンションが上がり、暗い雨の日なのに、なんだかほんわり清々しい旋律。
イリスの香りにはそんな印象を感じます。


イリスの優れたパフォーマンスは、ただそのシャボン感にあるだけでなく、
時間が経つにつれて真逆のドライでパウダリーな香りに変換していく点です。
それを発揮する特徴的な香気成分がヨノン/イオノン(Ionon)やイロン/アイロン(Irone)、
共にケトン類のバイオレット香気です。涼やかだけれど香り自体は重めで揮発性の低いもの。
バイオレット(すみれ)というとバイオレットリーフAbsなどがありますが、あれは葉っぱの方でグリーンなキュウリ様の香りで、
リーフにはヨノンやイロン類は殆ど含まれません。
バイオレット花の香りを連想させるヨノンやイロン類が多く含有しているのが、このイリス根(オリスルート)というわけです。
バイオレット香をなぜシャボン様だと思うかにも理由があり、バイオレット香気は石けんに耐えられるフローラルの香りで基材との相性がいいため、昔から石けんや洗剤にはミュゲ/Muguet(スズラン)やバイオレットを軸に調香されている商品が多いからです。

話が色々脱線しましたが、香りのブレンドにも同様、イリスはトップに透明なウォータリー感を感じさせ、時間が経つにつれ白粉のようなパウダリーさを残し、不思議なグラデーションを表現してくれます。


 


もう一つ、そのイリスという名前の由来は、ギリシャ神話に登場する「虹の女神 イーリス」から来ます。
虹というと、たいそうブライトリ―でハッピーなイメージですが、意外にもこの雨が似合う涼やかな色をした
アイリスに命名されているのはなぜか?
きっと雨が降って光が当たり虹が出現する。
虹を見るには雨が絶対必要なわけで...

そのプロセスに、アイリスの存在感と香り方に重ねることが出来無くもない。 こじつけですが。

雨が上がって来る夏、どこかで虹が見れるといいですね。


 


●イリスの活用法
手作りでせっけんをつくられる方にはおすすめです。
熱などの影響からも比較的耐え、香りが保持されます。
イリスはウッドや樹脂、アーシー系の精油素材(サンダルウッド、シダーウッド、コパイバ、ベチバーなど)
との相性も良いです。ウッディーやインセンス的な香りを作りたい時に、少しイリスを加えることで
軽やかさとコスメ感が生まれます。ぜひお試しください。

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