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世界のパートナーファーム Herb Travel 佐々木 薫ハーブ紀行

南仏プロヴァンス 真正ラベンダーの旅

2018.08.09 TEXT by Kaoru Sasaki

ラベンダーの最盛期、プロヴァンスを走る車はエアコンを止め、窓を開けてラベンダーの風を楽しみます。
畑に目を向ければ、風の力でラベンダーがうねり、まさにラベンダーの海。アロマテラピーを頭ではなく心で感じるために、ラベンダーの故郷、最盛期のプロヴァンスを訪ねました。
アロマテラピーの原点に立ち、新たなスタートを探る旅です。

野生ラベンダーの聖地、ヴァントゥー山

ヴァントゥー山は、奥プロヴァンスのシンボルです。この山を中心とする一帯、標高800m以上の場所に、野性ラベンダーが生育します。またこの付近は真正ラベンダーの畑が広がる地帯でもあります。

  1. 苛酷な環境の中で凛と香るラヴァンド・ソバージュ(野生ラベンダーのフランス語)。
  2. 元々は高地に自生していたラベンダーを放牧に来た羊飼いが刈り集めたのが始まりといいます。
    高地で働く羊飼いだけが、香りのよいラベンダーの咲く場所を知っていたのでしょう。
  3. 男性の刈り入れ姿。大きな布をからだに掛け、端と端を結び合わせて袋状にし、これでラベンダーを運搬するのが一般的だったそう。
  4. 私も挑戦しましたが急斜面で土はごろごろと滑りやすく、想像以上に難儀な作業です。

Lavender(True Lavender)
[真正ラベンダー] 学名:Lavandula angustifolia, L. officinalis, L.vera

シソ科

花の色:青から紫色
草 丈: 約60cm
香り:洗練された甘みのあるフローラルな香り
生育地: 標高800~1000m以上
採油率: 0.5~1.0%
特徴成分: 酢酸リナリル、リナロール

茎の先端の花穂に集散花序型の花をつけます。雄しべは花の中に4本、雌しべはガクの底にあり、ガクの中に種子を結びます。一見、花のようにも見えるラベンダーのガク。実はその表皮に精油の分泌腺が並びます。ガクはフェルト状の繊毛に覆われ、その密生した繊毛が水分の蒸発を抑制し、精油を生産する組織を守っています。収穫期の花を太陽の光に翳すと、ガクの表面にキラキラとクリスタルのように光る精油を目で確認することができます。
Lavandula属は強い適応力と交雑能力があり、そのため多くの品種を持ち、多様な地域に順応し、生育します。 中でもプロヴァンスでは、真正ラベンダーとスパイクラベンダー、その交配種がプロヴァンスの山々や丘の白亜質の土壌に自生します。 真正ラベンダーは6月下旬から7月下旬にかけて花を咲かせ、精油は化粧用、香料など幅広く利用され、やわらかな香りです。 それに対しスパイクラベンダーは丈高で、第2の花の房を持ち、花は暑い8月に咲き、強い樟脳(カンファー)の香り。 これら2つのラベンダーのよいところをとるように交配されたのがラバンディン。 ラバンディンは蜜蜂によって受粉された自然交配で、ひときわ大きいラベンダーです。 採油率も高く、丈夫で暑さにも強く、広範囲に生育するという長所を持ちます。 不稔性で種を作らず、ラバンディンはすべて挿し木で増殖します。 プロヴァンスの夏は、そこに咲くラベンダーの花で季節を感じ、今、自分のいる場所の高度を知ることができます。

スパイクラベンダー
英 名:SpikeLavender
学 名:Lavandula latifolia, L.spica

花の色:灰色がかった青
草 丈:約80~90cm
香り:カンファー調の香り
生育地:標高200~500m
採油率:1.5~2.5%
特徴成分:リナロール・酢酸リナリル・カンファー

学名のlatifoliaは「大きな葉」の意味。ビロードのような幅広い葉を持ち、草丈が長く、茎は3つに分岐し、それぞれの茎に小さな花をつけるのが特徴。カンファー成分を多く含みます。

ラバンディン
英 名:Lavandin
学 名:Lavandula intermedia, L.hybrida

花の色:淡い青から灰色がかった紫色
草 丈:約40~100cm
香り:シャープなフローラル調の香り
生育地:標高500m以下
採油率:1.5~2.5%
特徴成分* リナロール・酢酸リナリル・1-8シネオール・カンファー

香りは強く、日中40℃近くなる夏の暑さの中でも鮮やかに花を咲かせます。風に吹かれ、たくましく揺れる紫色の畝は、プロヴァンスの夏の風物詩です。グロッソ、アブリアリス、スーパー等、品種改良によって複数の種類があります。

ラベンダー畑で一日体験~収穫から整束まで~

乾いた石灰岩と石ころだらけの痩せた土地、冬は冷たい北西風「ミストラル」の吹き荒れる・・・
ヴァントゥー山の過酷な環境こそが、より美しい真正ラベンダーを育むといいます。そんなヴァントゥー山の麓の村で、花に魅せられラベンダーを生産するBusi家。最盛期の朝、彼らの畑でラベンダーの収穫を体験しました。ラベンダーの花は、ラベンダーとBusiさん家族に惹かれて集まる若者たちの手で、一株ずつが愛情こめて刈り取られていました。

  1. 刈り立ての真正ラベンダー1株。1株がちょうど1束分。丈の長さも花の紫色もその年毎に微妙に変わります。
  2. シッケルという三日月型の鎌を使って、1株分を一気に刈り取りますが、簡単そうでコツをつかむのがとても難しい。
    彼女はベテラン、慣れた手つきでスピーディーに刈っていきます。
    刈り取った束は輪ゴムで束ね、もとの株の上に置いていきます。
  3. 収穫は午前11時頃まで。その日刈り取った分を乾燥小屋へと運びます。
  4. 乾燥小屋の木枠に、ハサ掛けして乾燥させます。プロヴァンスの乾いた空気の中で、約3週間ゆっくりと乾かし、乾いたら最後の仕上げとして、1束ずつ丁寧に束を整えます。

ラベンダーの蒸留所へ

傾斜面の畑を器用に往復しながら刈り入れをするトラクター。
シートに広げられたラベンダーとその山を運ぶトラック。
蒸留所から立ち昇る煙、そこで働く人々・・・最高の時期に刈り取り一気に蒸留。
一面紫色だった畑が、日々緑に変わっていく、村の風景が、日々、一瞬一瞬に変わっていく・・・。
単なる観賞用の花畑でなく、ラベンダーと共に暮らす、人々の生活の息吹を感じるような気がします。どれもが、プロヴァンスの夏を彩る光景です。

  1. トラクターで豪快に刈り取られるのはラバンディンの畑。畑の美しい畝は、実は刈り取りのためのもの。
    トラクターが往復できる幅に整備されています。
  2. 刈り取った花は1昼夜、畑の脇に敷かれたビニールシートに広げて干され、余分な水分を飛ばします。
    花が蒸れて発酵しないようにするためです。
  3. 蒸留所ではクレーンを使って、蒸留釜に詰められます。
    早さが優先されるので、作業工程のほとんどが機械化され、ダイナミックな作業です。
    ラベンダーの場合は重量による計量は行われず、1回の蒸留に使われるラベンダーの量はカサで計ります。
    詰め込む重石にはコンクリート詰めの大きなタイヤが利用されています。
  4. 蒸気となった芳香成分を冷却層で冷やし、液体にして採りだします。黄色っぽい透明な部分が精油です。

ラベンダー歴史をたどって

プロヴァンスの歴史は古代ギリシャ時代に遡り、フランスの中でも古い歴史を持つ地域のひとつです。
この地域はラベンダーはじめ、ハーブの宝庫でもあり、その歴史上のひとつひとつの出来事も、ハーブと切り離すことはできません。
それほどまでにハーブはプロヴァンスの生活に溶け込んでいるのです。

  1. セナンク修道院
    セナンクは「プロヴァンスの3姉妹」とも呼ばれる、ロマネスク建築の3大修道院のひとつ。
    「貞潔」「清貧」「服従」をモットーとするシトー派の修道院で、現在も7名の修道士がここで求道生活を続けています。
    ラベンダーの収穫や蜂蜜作りもここでは彼らの聖なる労働のひとつです。
    有名なラベンダー畑は、修道院を訪れる人を楽しませるために植えられたというラヴァンディンの畑。
    この畑から蒸留された精油は清楚で凛とした香り、まさにセナンクのイメージでした。
  2. シトー派の修道士たちが人里離れた場所を好んだのは、神のみに仕えるためだといいます。
    山の奥へとひたすら車を進めると、谷底にひっそりと修道院が現れます。上から見る佇まいも絶景です。
  3. カルパントラのオテル・デュー施薬院
    「オテル・デュー」とは「市民病院」の意味で、カルパントラの町に18世紀に建てられた病院の薬局部分が美しく保存されています。
    植物だけでなく動物や鉱物、多くはフランス全土から集められたものです。
  4. ラベンダー博物館
    ヴォークリューズ県で5世代にわたりラベンダー農家を営んできたランスレ家の経営する博物館。蒸留器のコレクションはすばらしく、改良、発展の過程がわかりやすいように展示されています。

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