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世界のパートナーファーム Herb Travel 佐々木 薫ハーブ紀行

アマゾンの香木ローズウッド

2017.06.27 TEXT by Kaoru Sasaki

世界最大規模の熱帯雨林の中を、茶褐色の水をたたえ、悠々と流れる大河アマゾン。その森は地球環境の維持に大切な役割を担い、多様な生態系を育む天然資源の宝庫ともいわれます。
バラに似た香りを持つ人気の精油「ローズウッド」は、そんなアマゾンの密林に生育します。芳しい香りを放つ香木を訪ね、遥かブラジルへと向かいました。

大いなるアマゾン川

飛行機を乗り継ぎ、成田から約24時間。アマゾンの拠点、マナウスの町にたどり着きます。ブラジル屈指の大都市ですが、大きな港町といった異国情緒ただよう風情で、アマゾン川支流の町や村へ向かう定期船が行き来します。ここでは船が主要交通手段です。まさにアマゾンの入り口に立ち、これから出会うであろう、未知の世界に胸が高まりました。

大河アマゾンとは、マナウスから河口までをさします。ネグロ川とソリモンエス川、ふたつの大河がここで合流し、「アマゾン川」となります。ふたつの川は色も水温も流れる速さも違い、合流してもすぐには交わりません。そのため2つの川は約十数から数十キロ平行して走り、観光スポットにもなっています。
前者はコロンビアの山岳地帯を源流とし、浸水林の間をゆっくりと流れて来て、色は黒に近い深い茶褐色。水質は酸性で虫や菌の発生が少ないそうです。後者は、アンデスの雪解け水が流れつき、水温も低く、黄土色で有機物の多い豊穣の川です。森を覆う雨季の増水は雨量だけでなく、その雪解け水が起因するそう。

  1. 川は絶好の漁場。雨季(12月~5月)には10m以上水位が上がるため、川岸の家々はみな高床式。
    どこに行くにもボートやカヌーが必要。道のない密林の奥地に入るには、増水時期をまたねばなりません。
  2. 洋ナシ型の果実の先端に勾玉型の種子(緑色の部分)の「仁」。これがカシューナッツです。
  3. 川を遊泳する「ナマケモノ」。野生動物との共生はごく当たり前のよう。
  4. 早朝、魚釣りのスポットにはピンクイルカが集まり、夜は水面で目を赤く光らせる小ワニに出会います。

川の支流を遡り、いよいよ、ローズウッドの生育する原生林に。伐採には、森のすべてを熟知する「スカウター」が道なきジャングルを歩き廻り、めざす木を探します。現地名はPau rosa(パウ・ロサ)、「バラの木」という意味です。見つけた木に印をつけ、それらの位置をもとに伐採計画書を国に申請し、サスティナブル(持続可能) であることが認められた木だけが伐採されます。
森を熟知するイザキ氏はアマゾンの薬草、動物、昆虫の手ほどきをしてくれました。青く煌めく幸運の蝶に出会えたのも、彼と一緒だったからかも。密林の中でパウ・ロサを見分ける目を持つ彼です。

ROSEWOOD
[ローズウッド] 学名:Aniba rosaeodora Ducke
別名: Bois de rose、Pau rosa

クスノキ科 常緑性高木

樹高20~30m南米、グレートアマゾン地域に原生。バラのような芳香と硬くて重い材質が特徴。香料のほか、家具や建具などに利用されてきました。

精油を採るのは直径約20cmぐらいのもので、生育するのに約20年かかるといいます。ちょうど大人が広げた手のひら4つ分(4HANDS)くらいです。樹皮の表面は白っぽい皮に覆われ、樹形もとても美しい木です。葉は長楕円形で艶があり、やわらか。意外に大きく、熱帯の植物らしく、ふさふさと豊か。

ローズウッドの蒸留所へ

アマゾン奥地の交通手段は水路か空路。エアタクシーをチャーターし、蒸留所を目指して空の旅です。
上空から眺めるアマゾンは、まさに写真で見るとおり。緑と水が織りなす大自然の絵模様は迫力でした。

蒸留の工程

  1. アマゾン支流の奥地で伐採を許可された木は、その場で枝を落としておよそ1mの長さの丸太にされ、雨季の増水を利用して、カヌーやボートで下流の蒸留所へと運ばれます。
  2. 蒸留所で木材をカットします。芳しい香りがそこらじゅうに漂います。
  3. さらに細かなチップにし、蒸留器へ投入します。
  4. ボイラーからスチームを送り込みます。1時間ほどすると精油が採れ始め約6時間蒸留します。

ローズウッドのプランテーション

蒸留所の現オーナー、ザノニ氏は二代目。蒸留所を引き継ぎ、いち早くローズウッドのプランテーションも手がけて来ました。その背景には父の代からのパートナー、サミュエル氏との深い交流があります。
アマゾン生まれのサミュエル氏は、早くからアマゾンの森林資源の研究と保護、そしてサスティナブルな有効活用を説いてきた方。自ら大学で教鞭をとり、多くの著作を残し、その主張の普及に尽力しました。
ザノニ氏は彼の一番の理解者のひとりであり、彼の意思を具体化してきました。

  1. 発芽して本葉が出たところ。種子は想像してたものよりずっと大きく、アーモンドの仁ぐらいのサイズ。
  2. 8ヶ月程の苗を見せてくれたザノニ氏。植え付け後に豊富な水が必要なため、苗は雨季の初めに植えます。
  3. 蒸留所の脇のナーサリー(育苗所) 。プランテーションの畑から拾い集めた種子を発芽させ、1年間、半日陰で苗を育てます。
  4. 初期に植林した森は、まるでそこにローズウッドがもともとあったように自然に生育しています。
    蒸留所には植林の義務はありませんが、ザノニ氏は自主的に植林活動を始め、さまざまな試験栽培なども行い、行政機関からも注目されているそう。現在は息子さんが手伝い始め、蒸留所のサスティナブルも期待されます。
  1. プランテーションの森には実生の苗が、まるで種子が落ちて発芽したかのように生えていました。その周りには枯葉が積まれ、ふかふかの土。木の下で強い日差しも遮られ、森の中に自然のナーサリーが出来ていました。
  2. 再生プロジェクトのひとつ、切断した木から脇芽の成長を研究するもの。切断後1年で青々とした葉をふさふさとつけ、勢いよく両脇から伸びていました。
  3. 植林された苗は「アサイー椰子」の葉を利用し保護。
  4. 枝葉にもグリーンノートの爽やかな芳香があります。枝葉から抽出する精油をアロマテラピー市場へ普及させたいともザノニ氏は考えています。

ブラジル政府による環境保全とローズウッド規制

ブラジルのローズウッドの伐採に関する規制は、1930年代から実施されています。1989年環境行政機関IBAMA(ブラジル環境・再生可能天然資源院)が設立。1992年リオ・デジャネイロでの国連地球サミット開催を受け、IBAMAによりローズウッドの規制が強化されます。
その後、2010年ワシントン条約(CITES:野生動植物の国際取引に関する条約)の締結国会議で、附属書Ⅱ(必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制する種)に指定され、取引には輸出国の政府機関が発行するCITES輸出許可書が必要になりました。

生活の木ではこの取り決めに準拠し、ローズウッド精油を輸入しています。さらに精油原料をワイルド産(野生)から持続可能なプランテーション産(農場生産)に切り替え、抽出部位を幹(木部)から枝葉に変更し、木を伐採せずに採油する技術を確立しました。
2008年取材訪問時に1000本の苗木を贈り、翌年からも蒸留に使用した木の100倍の本数の苗木を農場に植樹し、繁殖に努めています。(2017年6月)

マナウスにあるIPAAN*1(アマゾナス州環境保全研究所。IBAMAによる規制をアマゾナス州で管理。)で、SDS*2ナディア次官にお話を伺いました。
IPAANは、アマゾンの天然資源を管理し、持続可能な開発計画をたてることを目的としています。森林など天然資源の保全、そこで暮らす人々(先住民も)、森からの収入で生計を立てる人々のサポートも重視しています。「森はパブリックなものであり、且つ、森に住む人たちが活用できるもの」と話されたのが印象的でした。

*1 アマゾナス州環境保全研究所。IBAMAによる規制をアマゾナス州で管理。
*2 環境保全とサスティナブルな開発を研究する、アマゾナス州政府の一部門。

アマゾンの恵み

多様な生物資源を抱えるアマゾン地域は、食材も豊富、食卓はバラエティ豊か。川で採れる多彩な魚、肉、トロピカルフルーツ、野菜の種類もおなじみのものがたくさんあります。それもそのはず、この地に農業を開いたのは、移民として渡ってきた日本人たちです。早朝、魚や野菜が支流の村や漁場から船で運び込まれ、次々にさばかれていきます。大人の身長ほどの巨大な魚も、どんどん切り身にされ、売られていきます。肉や魚と一緒に使う、コリアンダーやショウガといったハーブを売り歩く女性も。警備員もあちこちに配置され、安心して買物ができます。

見どころいっぱいアマゾン・マナウス

アマゾンの中心都市、マナウス。人口約140万を超えるブラジルの主要都市のひとつ。19世紀、アマゾン上流で天然ゴムが発見され、一攫千金を夢見てやってきたヨーロッパからの移住者たちが、この街を繁栄させました。当時のなごりが街のあちこちに残っています。
現在のマナウスは自由貿易港として、産業都市として発展し、日系企業の進出も。市場にはアマゾンの薬草やオイルなどを売る店もあり、そこにPaurosaの瓶も。アマゾンでもハーブは家庭の必需品のようでした。

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