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世界のパートナーファーム Herb Travel 佐々木 薫ハーブ紀行

活性化の香り ローズマリー・カンファー

2017.04.27 TEXT by Kaoru Sasaki

「海のしずく」の学名通り、ローズマリーは地中海沿岸原産、海岸沿いの断崖などを好み自生し主な産地はその地域に集まります。プランテーションもありますが、山岳部に自生するローズマリーが収穫され、採油が行われています。厳しい環境を生き延びる、野生ローズマリーを求め、スペイン・バレンシア地方を訪ねました。

野生ローズマリーの丘

ローズマリーは、ヨーロッパでは誰もが知るおなじみのハーブであり、古い歴史を持つハーブのひとつでもあります。古代ローマ時代に書かれた本草書には、薬草として登場していますが、ハーバリストの活躍した17世紀頃のイギリスで大変人気を博し、シェイクスピアの作品にも多く登場します。「これがローズマリー、『思い出』のしるし」、『ハムレット』のオフィーリアの台詞は有名です。ローズマリーが自生する丘を訪ねると、いきいきとした生命力が放たれ、似たような植物が多数生育する荒野でも、すぐに見つけることができ、多くの人、多くの場所、多くの用途に活用されてきました。

ローズマリーの風に吹かれて

ローズマリーの針のように尖った葉には、樟脳(カンファー)に似た、しみとおるような強い香りがあります。古くは燻蒸や防腐のために使われ、霊魂の不滅を願う死者の会葬、祝い事の席にも添えられてきました。ローズマリーにたくさんの逸話やエピソードがあるのは、この個性的な香りと、常緑という特徴のためかもしれません。常緑性は「永遠」を象徴し、さわるとずっと手に残る強い芳香は、「記憶」や「思い出」を連想させます。生育する環境の気候風土に影響を受けやすい植物といわれ、ここバレンシア地方に自生するローズマリーは、他に比べてカンファー成分が高いのが特徴です。このローズマリーから採れた精油は、「ローズマリー・カンファー」というケモタイプ(化学種)に分類されます。

Rosemary
[ローズマリー]
Rosmarinus officinalis

シソ科

生育する環境に適応しやすく、精油を化学的に分析すると、産地ごとに成分含有率に特徴があり、3つのケモタイプ※、「シネオール」、「カンファー」、「ベルベノン」の3種に分類されます。幅広い用途を持ち、それぞれの特徴を知り、目的にあった使い方をするのが、この精油を活用する秘訣です。

※ケモタイプ:同じ学名、同一品種でありながら、その成分構成に著しい差があるものを分類する考え方。ローズマリー・カンファー、ローズマリー・シネオールなど、特徴となる成分名で呼ばれます。ISO国際規格にローズマリー精油の成分規格があり、モロッコ・チュニジアタイプとスパニッシュタイプの2つがあります。特徴的な違いが見られ、例えばカンファーが前者は5~15%、後者は12.5~22%、1,8シネオールは前者が38~55%、後者が17~25%です。

スペイン・バレンシア地方南部は肥沃な土地ですが、乾燥が激しく生育できる植物が極、限られます。特に2014年の夏は150年ぶりの干ばつが続いていました。畑の土はひび割れ、山岳部の植物もほとんどがドライフラワーのような状態です。そんな中、ローズマリーは乾燥地に非常に強く、1滴のしずくのような雨水でも丈夫に育つとのこと。ローズマリーはこんな環境の下、カンファー成分を色濃く育むのでしょう。ローズマリーの自生地は山岳部、なだらかな丘の頂上に続く南側の斜面です。ローズマリーを収穫する青年は、大きな袋を腰に下げ、鎌を振り上げる様は清々しく、収穫された枝がどんどん積まれて行きます。

収穫そして蒸留

この地域は、大型の蒸留釡を一機構え、蒸留で生計をたてているような農家が点々とあります。ローズマリーやサイプレスなど野生ハーブを刈り集め、精油を蒸留していました。ローズマリーの場合はスチーム・ディストレーション、スチームで加熱する水蒸気蒸留法で採油されます。釡はどこも2トン以上の大型。小規模ながらも大量に収穫し、大量に蒸留します。スチーム式であるためと、空気がたいへん乾燥しているので、蒸留した後のハーブは放置しておけばすぐに乾き、次の蒸留の薪(燃料)として使われ、一部はこの地方で盛んな養豚の飼料にもなり、余すところなく活用されています。

  1. ローズマリーを刈る三日月型の鎌。プロヴァンスの農夫たちがラベンダーの収穫に使う鎌とそっくり。
  2. 昔は刈り集めたローズマリーをこんなふうに束ねたそう。
  3. ツンとした香りをたっぷり含んだ蒸留前のローズマリー。
  4. 採れたてのローズマリー精油。フレッシュで青臭く、生命感を感じる匂い。

この地に育む野生ハーブ

アーティチョーク
タイム
ケイパー
イモーテル

アーティチョークは蕾の状態で収穫されてしまうので、開花した花を見る機会は貴重です。横にはタイムの畑。普段あまり見かけない、チモール、カルバクロール成分の含有率が高い、ツンとした香りのものが栽培され、ピンクや白の花が満開でした。この地域でもうひとつ野生ハーブから精油が採られているのが、サイプレスです。ローズマリー、タイム、サイプレス、どれも常緑ですが、この環境の下、一番青々とした葉をつけるのがサイプレスです。そして、ひときわ目を引いたのが、ケイパーです。ピクルスにするなど料理でおなじみですが、聖書にも登場し、イスラエルの植物園ではシンボルマークなどにも使われている重要なハーブです。最後にイモーテル(ヘリクリサム)。永久花、エバーラスティングフラワーの別名も持ちます。可憐な花でありながら、乾いた地にしかと根ざし、たくましさを感じさせました。

旅の風景

セミハードチーズをローズマリーで包み、風味をつけたものがこの地方の特産です。
高い信仰心を思わす像や絵をあちこちで見かけます。
自然の風と水の力で侵食されてできた巨大な岩。

バレンシア州南部の町。この地域は紀元前のカルタゴ時代から歴史に登場しますが、8世紀以降500年以上にわたり支配を受けたイスラム勢力の影響を大いに受け、その足跡を町のあちこちに残します。ここから隣のムルシア州に隣接するあたりまでがオレンジやレモンの最良の産地で、豊かですがものすごく乾燥した土壌。これがローズマリーにもあうそうです。3分の1が山地、3分の1が谷あい、平地は残り3分の1、といった山間の町で、温暖な冬と暑い夏。年間降水量はわずかで、年間の3分の1は晴天、20年前には国内最高気温47.2℃を記録したそうです。

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