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バージンシアバターを巡る旅

2017.05.26 TEXT by Kaoru Sasaki

肌を潤すシアバターの木は、母なるアフリカの過酷な環境の下に生育を許された、聖なる樹木のひとつです。シアバターは、ガーナの乾いた地でいきいきと暮らす女性たちによって、ほとんどすべての工程が手作業で作られています。生み出されるバターはおだやかな色と香り、まさに「バージンシアバター」と呼べる癒しのバターです。

サバンナのシアの木

14世紀、イスラムの旅行家イブン・バットゥータは、アフリカの旅で現地の人が愛用する木の実の脂に出会います。ガルティーと呼ばれたシアバターは、今と変わらぬ瓢箪のボウルに詰められ、重要な交易品としてサハラ砂漠を越え、遠い国へと運ばれました。

シアの学名のButyro spermum parkii の「Parkii」は、シアバターをヨーロッパに初めて紹介したスコットランドの探検家マンゴ・パークの名から命名されています。
彼がアフリカに渡った18世紀後半は、ヨーロッパのアフリカ研究が白熱した時代。
当時、ニジェール川流域の生活で広範囲に使われるシアバターの忠実な記録を著書「ニジェール探検行」に残しています。著の中でシアバターは「シア・トゥルゥ」と呼ばれ、「シア」の語源になったといわれます。

シアの花
シアの種子
シアの仁
シアの樹皮

シアは、乾期(1~2月)になると、直径1~2cmのクリーム色の花が咲き、雨期(4~8月)に、約8cm大の卵型、プラムのような果実をつけます。最初の実がなるまで20年かかり、その後200年実るといいます。雨期の激しい雨に打たれて落ちる実は、多くの生物の食を満たします。味はこの世のものとは思えないほど美味で、天国の食物にたとえられます。果実の真ん中にある堅くつやつやした殻=外種皮に包まれた種子の中の仁に脂肪がたっぷり含まれます。果実は新鮮なうちに食され、残った種子を家庭にあるカゴに貯め、いっぱいになると仁を取り出す作業に。樹皮はコルクのように厚く、樹液は粘着剤として使われます。

Shea
[シア(別名カリテ)]Butyrospermum parkii

アカテツ科

常緑高木ですが、花が咲く前いったん葉を落とします。
樹高約7~25m。ガーナで自生するのは北部地域のみ。
美しい樹形はバオバブと並ぶサバンナのシンボルであり、シアが作る木陰は山羊たちの憩いの場にもなります。
ガーナでは、食用、薬用、化粧用として伝統的に使われてきました。
成分のほとんどをステアリン酸、オレイン酸が占めるため、酸化しにくく、ステアリン酸は人の皮脂にも含まれる成分なので、肌なじみが良くうるおいます。

シアバターの成分組成

  • オレイン酸(不飽和脂肪酸) 38~50%
  • ステアリン酸(飽和脂肪酸) 34~45%
  • パルミチン酸(飽和脂肪酸) 3~9%
  • リノール酸(不飽和脂肪酸) 5~8%
  • アラキジン酸(飽和脂肪酸) 1~2%
  • 微量成分2~11% (トリテルペンアルコール・カロチノイド・トコフェロール・アラントイン他)

シアの産地はガーナ北部ノーザン州。首都タマレは「シアのある所」という意味。10数名の女性と子供たち、その家族がひとつのグループになって暮らしています。灼熱の肌に、鮮やかな色の服と笑顔がよく似合います。
生まれたらすぐシアバターで全身をケアされるというガーナのどの赤ちゃんも、子供から大人までグループみんなに世話されながら育ちます。シアバター作りは女性の仕事。動かす手の速さと力強さはさすがアフリカ女性です。家庭で食用に使うバターはボール状に丸めて固められ、市場で売られます。

ガーナでは、NGOにより、地域の女性グループがシアナッツやシアバターを販売・加工するための支援活動が行われています。海外からの資金を集め機械を供給したり、作業所を作ったり、販売ルートの斡旋などを行っています。日本からもODA事業の一環として、こうした現地NGOへの支援が実施され、JETRO、JICAにより調査・指導のための専門家が派遣されています。

* NGO= Non Governmental Organization 非政府組織。平和人権の擁護、環境保護、援助などの分野で活動する非営利団体。
* ODA= Official Development Assistance 政府開発援助。政府資金で行われる発展途上国への無償援助、技術協力への出資。

女性グループが作るバージンシアバター

ガーナ北部では妊娠のお祝いや親愛のしるしとして、ボウルいっぱいのシアバターを贈る習慣があります。
料理、やけどや傷の手当て、スキンケアなど万能的に使われるバターは、家庭には欠かせないもの。
日用必需品としてだけでなく、ガーナ女性にとって、シアバターはそれ以上の深い意味を持つ心の宝物だと話してくれたのはNGO代表のアディサさん。出産後の母親のケア、赤ちゃんに、紫外線から守るために全身に塗るなど、女性にとっても無くてはならないものです。Women's Goldと呼ばれるのもそんな由縁かもしれません。
さらにはバターの生産が生活を支える収入源でもあり、「産業の少ない北部地域にとって、南部の金に匹敵する経済資源」と熱く語ってくれました。

バージンシアバターの生産工程

首都アクラから車で北上、赤い土ぼこりの道を時速100㎞の四輪駆動車で走り続けること約10時間、シアの自生するシアベルト地帯にたどり着きます。シアの実の収穫は忙しい農繁期。種子は加工して保存され、手の空く農閑期に女性たちはバターの生産にとりかかります。

  1. 仁をつぶす
    木槌を使い、仁を細かく砕きます。砕いた仁はほのかに香ばしく甘い匂いがし、触ると少ししっとりします。
  2. 焙煎する
    1を鍋に入れじっくりと焙煎。熱することで油が分離しやすくなるそう。
  3. ペースト状にする
    2をさらに細かくすり潰してペースト状にします。
    かなりの労力を要するため、現在はほとんど機械が使われます。どろっとしたココアペースト状になって滴り落ちてきます。
  4. 練る
    3を適量、ボウルに取り、水を加えて練ります。
    機械でひきたてのペーストは熱いので、初めは水、徐々にぬるま湯を加え、だいたい40~45℃前後を保ちながら、激しく練ります。
    練りの工程を担うマシンもありますが、ガーナの女性たちは大変でも手作業が好きだといいます。
    手で感触を感じながら、力やお湯の量を調整して加えていきます。手と機械では仕上がりも違うそう。
  1. ホイップ状にする
    練っていくうちに色がだんだん白くなり、ボウルの中でシアバターが乳化し水と混じりあった状態になります。
    最後に冷水を入れると、ふわーっと分離して脂分がホイップクリームのように浮き上がります。
    まだ細かい殻が混じっているため、白く浮いた部分だけを別の器に丁寧にすくいとり、さらに精製していきます。
  2. 煮る
    5を鍋に入れて弱火で熱します。
    白く見えた脂も、溶けるとまだまだ茶色い状態。
    時々静かにかき混ぜながらゆっくり熱し、水分を少しずつ飛ばしていくと、殻などの不純物は下に沈み、油は上に分離してきます。
  3. きれいな油をすくい煮詰める
    上層に浮いた油を別の鍋にすくいとり、再度同様に煮つめ、徐々に純度を高めていきます。
    ぐつぐつと煮立て、水分を飛ばします。最後に火から下ろし、熱いうちにフィルターで濾します。
  4. 固める
    7を容器に流し込み、静かに放置し、固めます。バージンシアバターの出来上がりです。
    出来たバターは、カラバッシュという瓢箪で作ったボウルにてんこ盛りにして売られます。ガーナの伝統的なスタイルです。

シアバターのあるマーケット風景

シアバターが売られるガーナのマーケットは活気にあふれ、とてもエキサイティングでした。

  1. 地域のグループから集められたシアの仁はボウルで計量し、輸出業者や製造業者に売られます。
  2. 黄色いバターは木の根で色づけされたもの。色のついたものが好まれるそうです。
  3. カラバッシュ入りのシアバターはガーナの女性たちの服と同じようにカラフルな布に包まれ、生産した女性たちが集団で市場に運び、売りさばきます。
  4. カラバッシュ(瓢箪を2つに割ったもの)を売る店も。

アクワバ!(ようこそ)ガーナ!魅力いっぱいのみどころ

「アクワバ」には「お帰りなさい」の意味もあるそう。故郷に帰ったようにくつろいで、そんな思いが込められているように思います。見どころもたくさんありますが、何よりの魅力はガーナ人の気さくでフレンドリーな人柄。すぐ友達になってしまいます。

「ガーナ」の名は王の呼称のひとつで、「戦いの王」の意味があるといいます。1957年、イギリスから独立する際、8世紀に栄えたガーナ王国の名にちなみ、国名とされました。ガーナといえばチョコレート。その色がよく似合う国です。子供たちの制服の色にも使われています。
遠くアンデスから来たカカオの木、畑があるのは海岸に近いガーナ南部の熱帯地域ですが、北部に自生するシアと共通する点が多いのも不思議な偶然のような気がします。

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